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インタビューINTERVIEW

TALO都市企画
飯田代表インタビュー(2/2)

2012/11/6

前ページからの続き)

マンションの社会性とエリアマネジメント

――マンションと地域コミュニティとの接点も、同じような理由で少なくなっていったのでしょうか。

意識の問題だけではなく、マンションが普遍的商品となっていく過程で、オートロックに代表されるセキュリティシステムが標準装備となったり、超高層マンションが分譲されるようになったりと、地域とつき合いにくいしくみが都市型ライフスタイルとして定着してしまったということでしょう。

マンションは、自動車産業や家電産業とならんで、大きな経済的役割をもつようになりました。マンション販売戸数が景気動向を占う目安のひとつとして毎月のようにニュースとなるぐらい、経済的な成長戦略に与える影響や期待も大きい。こうした経済性が重視される一方で、社会性が軽視されてきたことが問題です。

例えば、東京・江東区では湾岸地区のマンション開発により人口が急増し、現在の約46万人から63万人に増加するという予測も出ている。中央区と千代田区も再開発によるマンション化率が高く、人口は増加しています。全体としては人口減少傾向にある地方でも、いわゆるマンション型のRC型収容住宅が都市部に増加し、利便性が高いことから人口流入とコンパクトシティ化という現象が起きている。

こうなると、問題となるのはマンションが孤立することではなく、マンションが大きな影響を与える地域社会のほうです。地域の「マンション社会化」ともいえます。マンション社会化が進むと、従来型の地域社会や町会などが機能しなくなるだけでなく、マンション単体の管理もあまり意味をなさなくなり、「まち」単位での管理が必要となってきます。最近は「エリアマネジメント」と呼ばれることが多いようですが、一種の団地管理組合と考えると理解しやすいでしょう。

千葉・佐倉市のニュータウン「ユーカリが丘」では、開発にあたった民間デベロッパー主導による長期的な街づくりプランに基づき、1980年代からマンションと地域の管理を一体化したエリアマネジメントを実践していますが、これは先駆的な事例です。神奈川・川崎市では、2007年に武蔵小杉駅に隣接するマンションから構成される「NPO小杉駅周辺エリアマネジメント」が設立され、行政との協働による街づくりを進めています。東京・稲城市の多摩ニュータウンでもエリアマネジメントの実証事業が行われていますし、こうした取り組みは今後ますます増えていくと思います。

MLCP(マンション生活継続計画)の提言

――阪神・淡路大震災では地域コミュニティが災害時に果たした役割や貢献が大きな教訓として残されましたが、東日本大震災ではどうだったのでしょうか。

東日本大震災で起きたマンションの問題は、津波による大きな被害の陰に隠れてあまり知られていないようです。ただ、津波を除けばですが、阪神・淡路大震災に比べて「倒壊」に至ったマンションが少なかったことは事実です。特にマンションが多い仙台周辺は、歴史的に地震に対する防災意識が高かった地域であり、耐震補強済みの建物も多かったし、地震保険の加入率も高かったといいます。

しかし、建築学会の判定基準では構造躯体まで崩壊した「倒壊」に当たらなくても、行政による罹災証明書の認定基準では「全壊」になるという基準の違いが大きな問題となりました。当初、高層住宅管理業協会は前者の基準に従って「倒壊0棟」と発表しましたが、その後、仙台市は後者の基準に従い「全壊100棟」とする認定結果を公表し、一部に誤解と混乱を招いています。判断のものさしが違うだけでどちらが間違いということはないのですが、躯体に被害はなくとも雑壁が崩壊して生活に支障がある被災マンションは多数あり、建築学的にいう「倒壊0棟」に惑わされないよう注意することが必要です。

また、仙台市内では公設の避難所に避難しないマンション住民が多数いました。これは、避難所へ行ってもいっぱいで入れなかった、被害の軽いマンション住民は受け入れてもらえなかった、あるいは自室のほうがまだマシだったので帰ってきたなど、さまざまなケースがあったようです。いずれにしても、鉄筋コンクリート造を主とするマンションは、少なくとも人命を守るシェルターとしての役割を果たすことが実証されたといえます。

今後は、シェルターとしての基本性能を生かして、災害時に生活を継続するために必要な課題を整理したMLCP(Mansion Life Continuity Planマンション生活継続計画)を、管理組合と管理会社などが協力して作成することが望まれます。MLCPについては、非公式ながら公民産学の有志による検討会を組織して研究しているところで、東日本大震災の事例なども詳細に調査・分析したうえで、国土交通省をはじめマンション関係者に対する提言をまとめることにしています。

現在、マンションは単なる区分所有建物の域を超え、社会システムの一部としての機能をもつようになっています。民間のエネルギーから生まれ市場のなかで形成されてきたマンションという社会的しくみを、居住や都市のあり方という面から維持管理していかなければなりません。同じく民間のエネルギーが作り出した自動車や家電は、需要側と供給側の「共進関係」により商品・サービスの品質や性能向上を進める好循環を生み、生活基幹産業として発展してきました。なぜマンションは自動車・家電のようになれなかったのかを考えてみる必要があると思います。

(2012年9月7日、取材・構成/編集部)




バナースペース

人物紹介 PROFILE

株式会社TALO都市企画
代表取締役/マンション管理士
飯田 太郎 氏

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飯田 太郎(いいだ・たろう)

1942年(昭和17年)年東京生まれ。早稲田大学在学中から広告やマーケティングの仕事に関わるなかで、住宅・都市・環境等に関心をもつ。1983年株式会社TALO都市企画を設立、代表取締役に就任。不動産を社会ストックとして考える立場から、マンションの維持管理、まちづくり、都市農地の保全活用等の分野で仕事と研究活動をし、最近は都市防災、マンション防災を中心テーマとしている。東京都優良農住賃貸住宅推薦委員会委員長、江東区都市計画審議会委員、浦安市マンション政策委員会委員等を歴任。現在、地域マネジメント学会(理事)、日本不動産ジャーナリスト会議、日本不動産学会、マンションコミュニティ研究会(監事)、東京湾岸集合住宅防災ネットワーク(幹事)、首都圏マンション管理士会城東支部などに所属。著書に『マンション安心読本 あなたの生命・生活・財産を守る』(実業之日本社)、『マンション建替え物語 上作延第三住宅における10のポイント』(共著、鹿島出版会)、『マンション力 マンションが日本を変える』(共著、大成出版社)、『うちのマンション大丈夫? 家族で助かる地震対策マニュアル』(監修、学陽書房)、『地域・マンションの防災スタンダードブック』(地域マネジメント学会編、大成出版社)ほか多数。

図版 CHART

写真: 大京観光株式会社(現・株式会社大京)がライオンズマンションの入居者向けに作成していた月刊広報誌「ライオンズライフ」。1982年創刊の同誌バックナンバーには、それまでにない新しいライフスタイルやマンションコミュニティを提案する充実した記事がみられる(資料提供: TALO都市企画)

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図: 現在は人口急減・超高齢時代に対応した新たな生活基幹産業としてのマンション事業が求められている(資料提供: TALO都市企画)

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