アスカ建築設計事務所/マンション管理士事務所
中村代表インタビュー(1/2)
2013/2/12
「マンション管理士のなかで建築士の有資格者は結構いる。しかし、構造設計一級建築士をもつ管理士は少ない。私は、いわば“物好き”ですよ」と笑うのは、アスカ建築設計事務所代表とアスカマンション管理士事務所代表という、二つの肩書きをもつ中村利道氏[注]。どちらの分野についても豊富な経験と深い知識をもつことから、マンションを対象とする東京都のアドバイザーの草分けのひとりとして、多くのマンション問題に取り組み管理組合の支援を続けてきた中村代表に、マンション管理の現場では何が起きているのか伺いました。
クルマを部屋までもっていけるスマートマンション?
――既存のマンションに限らず、新築マンションの動向などを現場からみて、最近注目していることはありますか。
分譲マンションではなく賃貸物件での話ですが、バイクを部屋までもっていける新築マンションの人気がクチコミで広がり、少し高めの家賃にもかかわらず募集前にすぐ埋まったそうです。バイク愛好家が自分のマシンをチューンナップするのに、いわゆるバイク置き場では狭いし物足りない。かといって、バイクは燃料を積んでいるので、きちんと防火区画されていないと室内では保管できない。それなら、「バイクを置ける部屋をつくっちゃえ」という発想だったようで、単に駐輪場が広いとかバイクガレージがあるというのとは違うインパクトがあったようです。
これが発展すれば、近い将来「クルマごと部屋に入れるマンション」が出てくるかもしれません。イメージとしては宇宙船と宇宙ステーションのように、電気自動車(EV)と家がドッキングするという感じでしょうか。ドッキングすることで、EVを充電することができるし、家庭用蓄電池として使うこともできるわけです。こうなると、クルマはもう家電のひとつですね。
EVを蓄電池として活用する「スマートハウス」は、すでに実用化が始まっています。これまで「エコ住宅」と呼ばれていたのは、おもに建築材料や構造、設備による省エネ型でしたが、スマートハウスは省エネに加えて太陽光発電などによる“創エネ”とEMS(エネルギーマネジメントシステム)によるコントロールを行う点が異なります。
これをマンション単位で行えば「スマートマンション」ということになります。クルマを部屋までもっていけるスマートマンションは、近いうちにきっと出てきますよ!
――構造設計一級建築士の資格をもつ管理士は少ないというお話がありましたが、二つの名前をどう使い分けているのですか。
使い分けているというより、管理組合と接する場合の間口を広げ、より総合的に支援ができるようになったということです。建築事務所とマンションの接点は建物の維持管理のみ、いってみれば大規模修繕ぐらいです。マンション管理士専業でやっているひとはまだ少なく、ほとんどの場合は兼業ですが、管理会社のことや管理規約、組合運営などについては、建築士より管理士のほうが当然詳しい。とすると、管理組合にとっては建築に詳しい管理士がいれば相談しやすいわけです。
規約に書かないルールもある
そもそもは、自宅になかった書斎代わりに1DKのマンションを購入し、自分自身が区分所有者となったのが管理組合に関わるきっかけでした。1982年(昭和57年)の「標準管理規約」公表、1983年(昭和58年)の「区分所有法」大改正より前の話で、マンション管理士という資格もまだないころです。このマンションでは、旧地権者が中心となって管理組合を設立し、旧地権者とデベロッパーが作った3〜4ページの簡単な規約もありました。しかし、建物の使い方が記載されている程度で、正式な規約は組合設立後となっていました。組合といってもいわば町内会の集まりか親睦会に近いもので、規約には議決権に関する規定もなく、規約と言うより生活上の約束事を記載したものでした。
本来、管理組合の運営はいわばマンションの経営で、修繕工事などは事業として行う視点が必要です。特定の地権者が議決権の多数を押さえている場合でも、何でもかんでも多数決でいいというわけではないし、いざ裁判となれば原告にも被告にもなる可能性があります。そこで、しっかりした管理規約を作ろうということになったのです。
このとき重視したのは、約束ごとを規約として「書く」ことより、決めたとおり「行う」ことでした。総会の普通決議(過半数)と特別決議(4分の3以上)の別は規約で定めましたが、旧地権者の一人は議決権数の3分の1をもっていたので、事実上の拒否権をもっていました。このことがネックになり、規約成立の承認はなかなか得られませんでした。そこでこの区分所有者と話し合った結果、議決権数の割合を3分の1から4分の1に削減することに合意してもらった。つまり、「本来なら自分一人で決められる(拒否できる)ことでも、最低でももう一人の賛同者を募ってくれ」と譲歩を要求したのです。
その後、本人が「マンションのことは一人で決めてはいけない」というルールの意味を理解し、相続時には二代目に「賛同者を募れ」という遺言まで残してくれました。他の区分所有者を含めた相互の信頼が確立された段階で、この管理組合は議決権割合の譲歩条項を規約から削除しました。規約に明記しなくてもルールが守られるという暗黙の了解で十分と判断したわけです。規約に頼りすぎないルール作りともいえるでしょう。
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