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インタビューINTERVIEW

アスカ建築設計事務所/マンション管理士事務所
中村代表インタビュー(2/2)

2013/2/12

前ページからの続き)

――規約やルールを決めただけで実際に守られていなくても、管理組合としては責任を果たしたと勘違いしているマンションがよくあります。規約に書かないルールが守られるというのは、ある意味で理想的ですね。

自分たちのマンションのことは、自分たちで決めるのが当然です。役員をいちどやってみればわかります。輪番制の役員だと、気づく前に交代してしまうことがありますが、いちど気づけば理事会が中心となってうまく動けるようになるものです。ただし、最近はわかっているマンションとそうでないマンションの二極分化が激しいのが問題かもしれません。マンション管理に対する理解度の分布が、例えていえばピラミッド型ではなく2次曲線的に増減しているという感じです。

居住者情報を把握しきれない管理組合

また、個人情報保護に対する過剰な対応も大きな問題となっています。マンションの居住者情報の把握は、管理組合のもっとも基本的な仕事のひとつですが、管理会社が調べた居住者情報を管理組合に渡さないためトラブルとなる例が増えています。管理会社としては、居住者の同意を得て収集した個人情報は、本人の承諾なしに外部に出すわけにいかないという言い分なのでしょうが、そもそも誰のための情報収集でしょうか。

あるマンションでは、管理会社が居住者リストを管理組合に渡すことを最後まで拒否したため、管理組合として改めて居住者調査を行わなければなりませんでした。管理会社は管理のプロで、管理組合は素人集団という、誤った管理者意識の典型です。当然、その管理会社はリプレースされました。

住民側が間違った理解をしていることもよくあります。特に、緊急時の一時連絡先を管理組合が把握しきれず困ることが多いようです。大地震などの災害時にはマンションに残されたひとが助け合わなければいけないのに、どこに助けを必要としている弱者がいるのかもわからない。弱者は、決して高齢者や病人に限らず、健康な子どもだって両親が共稼ぎで帰宅できなければ助けが必要となります。なかには「ここにいることがわかると困るんだ」などと開き直るひともいますが、たとえ名簿提出を拒否したからといって、災害時にもし目の前でケガをしていたら助けないわけにはいかないでしょう。

――東日本大震災の教訓として、戸建てとは異なるマンションの防災体制に対する関心が高まっています。

阪神・淡路大震災では建物に大きなダメージを与えるキラーパルス(周期1〜2秒の地震動)が多く発生したため、多数のビルやマンションが倒壊しました。東日本大震災ではキラーパルスが少なかったため、津波による被害は別として、倒壊した建物は比較的少なかったといわれます。しかし、マンションが倒壊しなかったからといって、そこに住めるかどうかは別問題です。

超高層マンションが生み出す深刻な問題

建物の倒壊を防ぐ耐震と生活を守るための耐震では、考え方が異なります。特に高層マンションでは、そこで生活し続けるための「機能の耐震性」を高める必要があります。災害時に行政が設置する避難所は、建物が倒壊するなどして住めなくなった被災者を対象とするもので、電気や水道が止まったからといって建物が壊れていなければ基本的に受け入れてもらえません。建物にそれほどの被害がなかったとしても、20階建てや30階建ての高層マンションでエレベーターが止まったら、一時的な避難生活が必要ですよね。最近では50階を超えるような超高層タワー型も出てきましたが、こうしたマンションの被災者は、公設避難所の対象外なのです。

しかも、大規模マンションでは住戸が数百戸から数千戸、居住者数は1000人以上、場合によっては数千人規模などという、地方の町レベルの人口に匹敵する場合もめずらしくありません。これだけの数の居住者を、行政能力のない管理組合がまとめることなど本来不可能なはずですが、こうしたマンションがいまでも続々と分譲されています。デベロッパーによるあとのことを考えない「売らんかな」商法といわれて、反論できるひとがいるでしょうか。

建築技術の発展により建物は昔に比べてはるかに強くなりましたが、電気・ガス・水道・情報通信などのインフラに支えられた生活の仕方はむしろ弱くなっています。また、こうした生活環境が次世代を担う子どもたちに与える影響も心配です。オートロックで外部と遮断され、高層階に住む子どもは、部屋から出なくなりがちです。敷地内に人工的につくられた植栽や小川も、本当の自然ではありません。

1960年代(昭和30年代後半)に団地住まいの子どもが急増したときにも、「箱の中で育った子どもたちは将来どんな大人になるのか」という、似たような論評がありましたが、それでも団地はコミュニティを形成し外部との人的・物的交流が行われていました。いまの高層タワー型マンションは、そのまま放置すればコミュニティや地域交流もなく、団地とは異質な閉鎖的・排他的環境に子どもたちが置かれることになります。すでに人格が完成された大人は別として、子どもたちにはどのような環境を与えたら良いのか、残念ながらいまのところ正答はありません。

(2012年12月18日、取材・構成/編集部)




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人物紹介 PROFILE

アスカ建築設計事務所/アスカマンション管理士事務所
代表
中村 利道 氏

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中村利道(なかむら・としみち)

マンション管理士、一級建築士、構造設計一級建築士。明治大学工学部建築学科卒業、株式会社織本建築事務所を経て、株式会社北欧設計を設立し代表に就任。現在、アスカ建築設計事務所/マンション管理士事務所代表、台東区マンション管理士会会長。東京都マンション管理アドバイザー、東京都マンション建替え・改修アドバイザー、耐震総合安全機構(JASO)建築耐震アドバイザーとして、コンサルティング等実績多数。

図版 CHART

中村氏は、自他ともに認める登山愛好家。上のプロフィール写真にも、事務所の壁をぐるりと囲むように貼られた山の写真の一部が見える。63歳のとき脊柱管狭窄症になり、背中を二つに割る大手術をしたにもかかわらず、その後ヒマラヤのゴーキョピーク(5483m)に登った。以下の写真は、全て中村氏自身が撮影したもの。

写真2: エベレストから直線距離9Kmのカラパタールの丘(5545m)から撮ったエベレスト(8848m)

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写真3: ゴーキョピーク(5483m)から撮ったチョオユー(8201m、世界6位)

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写真4: エベレスト街道から見たエベレスト山群。左:エベレスト、中央:ローチェ(8501m、世界第3位)、右:アマダブラム(6856m)

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