若林マンション管理士事務所
若林代表インタビュー(1/2)
2013/7/23
マンション管理士の仕事は、マンションの管理ではなく、管理組合の経営コンサルタントという明確な信念のもと、「マンション管理士という職業には未来がある」と“独立系”の専業マンション管理士を自ら実践してみせる若林雪雄氏。管理組合の立場で思考・行動することをモットーに、多数のマンションから顧問業務を受託してきました。管理組合の運営には経営的視点が不可欠という若林代表に、いまマンション管理組合と管理士の双方に求められる意識改革について伺いました。
マンション管理士に期待される役割
――2000年(平成12)年のマンション管理適正化法制定と翌年の施行以降、この10数年を振り返ってどのような感想をおもちですか。
私は管理組合出身のマンション管理士です。10年ほど前に初めて私自身が住むマンションの管理組合理事になったのですが、「こんなに専門的な仕事を素人がやるのは無理がある」と強く感じました。
その後、個人的に親交があった建築士や弁護士などの専門家にいろいろと助言を求めたのですが、「物足りない」という印象でした。というのは、マンションで問題となるのは建築や法律に関することだけではなく、もっと広い管理組合運営の全体に関することであり、とても複雑でわかりにくいものだからです。
管理組合の運営には、企業の経営にも等しい判断を必要とする場合がままあります。ということは、管理組合にとっての“経営コンサルタント”が必要だと感じました。
――適正化法に基づき創設されたマンション管理士は、まさにそうした役割が期待されていたものですね。
そのとおりです。私もマンションの“経営コンサルタント”をめざして勉強し、資格取得後、国土交通省登録マンション管理士として活動を始めました。
しかし、管理士になってみて、また愕然としました。当時は、法律問題や大規模修繕、トラブル処理といった部分的な支援業務にのみ興味のある管理士が多く、私が考えていたような管理組合の包括的経営支援に対する関心は非常に低かったのです。
例えば、法律というのは管理組合の運営または経営を行ううえでのツールであって、それが全てではない。法律を使って、経営的観点から判断し、問題を処理するということが重要で、要はマンションのマネジメントが求められているわけです。
マンション管理組合は事実上の経営体
――マンションのマネジメントとは、具体的にどういうことでしょうか。
長期修繕計画を例に挙げれば、管理組合としてはまず作らなければならない、それでは設計事務所に頼もうということになる。しかし、設計事務所は、長計を作るにはどうしたらいいのかという提案や積算を出すことはできても、マンションの将来に責任を負うことはできません。
この先の計画修繕をどう考えるのか、管理組合を長期的にどう運営していくのか、各区分所有者の負担すべき費用はどうするのか、こうした問題を総合的に考えることが経営的判断であり、マンションのマネジメントといえるのではないでしょうか。
大規模修繕も同じです。建築士にコンサルタントを委託すれば、技術的側面から原状回復という大規模修繕本来の目的について詳しく話を聞くことができます。しかし、改良工事や建物を長持ちさせる方法などについては、管理組合が主導して考えるべきもので、ここまでコンサルに任せてしまうべきではない。
もうひとつ、管理業務の委託もそうです。管理会社にはマンション管理適正化法にいう「事務管理業務」という、管理業務の一部を委託しているにすぎないのであって、いわば管理組合の“使用人”です。本来は管理組合が考えるべき変更・改良や裁量といったマネジメントの力を、管理組合が放棄してしまってはいけない。
――業者への丸投げはよくないということでしょうか。
というより、マンションとしてのトータルな力を持たなくてはいけないということでしょう。そのためには、管理組合運営の正常化が必要で、そのためのコンサルタントが求められているということです。
これは企業経営から学んだことでもありますが、セクションが頑張りすぎると陥りがちな間違いがあります。営業・製造・販売・管理・サービスなど一部のセクションが優秀なだけではダメで、企業のトータルな力が備わってはじめて業界のトップになることができる。役人が省の利益だけを考える愚もこれと同じです。
つまり、管理組合というのは事実上の経営体であって、マンションという共有財産に関するさまざまな問題を総合的に判断して運営しなければならない。そして、これが執行機関である理事会の仕事ということになります。
企業ですら難しいこうした経営の舵取りを、素人の管理組合ができるでしょうか。マンション管理士に期待される役割というのは、まさにここにあるのだと思います。
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