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インタビューINTERVIEW

若林マンション管理士事務所
若林代表インタビュー(2/2)

2013/7/23

前ページからの続き)

輪番制やジャンケンで役員を決めてはダメ

――組合経営のコンサルタントとしてのマンション管理士の活動は普及してきましたか。

部分的には浸透してきたように思います。もともと経営的センスのある人が管理士になれば、必然的にそうしたサービスを提供できるようになるでしょう。

企業経営においては、「ヒト・モノ・カネ」に加えて「情報」という経営リソースを組み合わせ、最高のパフォーマンスを引き出そうとしますよね。管理組合運営は、こうした企業経営と経営資源の活用から学ぶべき点が多いと思います。

そのためには、輪番制やジャンケンで役員を決めるような、当たりはずれのある方法ではダメです。マンション住民は、まずこの辺から意識を変える必要があるでしょうね。

また、管理組合には企業と違って、マンションという小社会を反映した人間関係やバランスがあり、合理的な運営方法が必ずしも正解とは限らない。こうした現実を理解しないと痛い目に遭うことになるので、注意が必要です。

マンション管理士がもつべきリテラシーというか判断能力として、情報や知識をいかにうまく活用するかという点が重要です。こうしたスキルを養うには、それなりの訓練や教育が必要だと思います。

管理組合が管理会社と対等にわたり合うことは困難

――管理会社もある意味でマンションのプロといえると思いますが、どのような距離感を保つ必要があるのでしょうかる

管理会社がプロだとすればなおのこと、管理組合は素人集団ですから、対等にわたり合うことは困難です。また、管理会社はあくまで営利企業ですから、マンションの資産価値向上については二の次となるのが当然で、利益相反の関係にあることを忘れてはいけません。客である組合が、本来の力関係を忘れ、管理会社に頼り切っている状態は問題です。

マンション購入者の多くは意外とブランド信仰が厚く、管理会社についても間違った考え方が根強いことが気がかりです。区分所有者の消費者としての心構えというか、所有者自身の“気づき”がないと、改善のしようがありません。

まえに米国の大都市にあるコンドミニアムの管理手法を調べたことがありますが、民主主義が発達している国だけあって、権利と義務が契約に基づいて明確にされていて、スッキリしているなと感じました。

都市部のマンション化率が高い日本と単純比較はできませんが、管理会社との関係でいえば、主役は常に管理組合に相当する区分所有者の団体であり、倫理観や権利関係がガラス張りです。管理会社は、協力業者のリストは有するが、管理組合が清掃にしても点検、補修にしても契約者となります。ただし、必ず数社の相見積もりで発注先を決定するなどのルールも明確化されていました。

また、いわゆるソフトとハードの分離がはっきりしているのですね。コントラクター(エンジニア)はハードを、コンサルタントはソフトを担当し、お互い牽制する状態にあるので、消費者は安心できるわけです。日本で管理会社に全部委託すると、発注先の選定や価格がドンブリ勘定だったり、そもそも「客に知らしめまい」とする基本姿勢があったりして、情報が欲しければ客の側から声を上げる必要がある。消費者の利益を考えれば、どちらの方法が良いかは明らかです。

マンションの“売りっ放し”が招く消費者の悲哀

――最近は高層タワー型の分譲マンションが増えてきましたね。

高層タワー型マンションは、建築においても管理においてもノウハウの蓄積が少ないため、「こんなことが起きるのか」というような問題が頻発しています。基本的に売主は“建てっ放し・売りっ放し”で、最終的には全て管理組合が尻拭いする図式となっていて、従来にない問題が大きくなっているのが現状といえます。

高層タワー型に限らず、消費者は共用部分の構造や設計よりは専有部分(居室)の設備や性能にひかれてマンションを購入しがちです。持ち家政策やマンションの青田売りを認めている日本の制度にも問題がありますが、設備にひかれて買ったマンションで、あとから目に見えない問題が出てきて、所有者と管理組合に全ての責任と負担を押しつけられてはたまりません。マンションの売り方の問題を解決しない限り、購入者の悲哀はなくならないと危惧しています。

東日本大震災の教訓のひとつは、マンションの防災・減災対策は管理組合が主導権をもってやらなければ誰もやってくれないということでした。行政の支援には限界があるし、任意加入の自治会に任せておける問題ではないのです。高層タワー型マンションにおいてはなおのこと、いますぐに必要なことをやるかやらないかで、勝ち組・負け組が決まるといえるでしょう。

マンション管理士のなかには「管理組合の意識が低いから仕事が少ない」という人がいますが、これは間違っていると思います。マーケットは無限にあるのに、管理士の側に欠点があるから仕事に結びつかないのです。良質な管理士を育成する体制づくりは必要ですが、管理士の側にも意識改革が必要ではないでしょうか。

(2013年7月11日、取材・構成/編集部)




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人物紹介 PROFILE

若林マンション管理士事務所
代表
若林 雪雄 氏

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若林 雪雄
(わかばやし・せつお)

マンション管理士、管理業務主任者、防犯設備士、地震情報セーフティトレーナー、米国不動産管理士(CPM)。1947(昭和22)年生まれ。1970(昭和45)年、一橋大学商学部卒業、日本鋼管株式会社入社。1999(平成11)年、ビジネスコンサルタントとして独立。2004(平成16)年、マンション管理士資格取得後登録、若林マンション管理士事務所代表。2005(平成17)年、一般社団法人首都圏マンション管理士会城東支部長に就任し、現在に至る。管理組合出身のマンション管理士を自称し、業界とは距離を置く独立系としてマンションの経営全般を支援。クライアントの利益を最大関心事とする姿勢が評価され、地元の東京・城東地区を中心に管理組合顧問などの実績多数。現在、首都圏マンション管理士会理事、台東区マンション管理士会顧問、江東区分譲マンション管理相談員、日本マンション学会正会員。

図版 CHART

図: マンションを取り巻く図式(資料提供: 若林マンション管理士事務所)

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