社会インフラとしてのマンションの役割を考える(1/2)
2014/12/29
マンション管理士/TALO都市企画代表
飯田太郎
マンションは民間主導で普及した
国土交通省の調べによると全国のマンションストックは2013(平成25)年末に600万戸を超えた。1953(昭和28)年に東京都が「宮益坂アパート」を分譲してから61年、今やマンションは全世帯の10%以上が居住するまでに普及した。毎月発表される新規発売戸数や月間契約率は景気動向を示す重要な指標として広く注目されている。
このようにマンションが日本人の新しいタイプの住まいとして普及したのは、行政が住宅政策や産業政策に位置づけ、後押しをしたことによるものではない。多くの地方自治体が「マンションお断り」といった姿勢をとるなかで普及したのはもっぱら民間の力による。
大都市圏への人口集中を背景に、都市型ライフスタイルを志向するユーザーのニーズと、日本人の根強い持家志向を満足させる新たな不動産ビジネスとして取り組んだ新興デベロッパーの活力が、マンションが普及する原動力になった。
都市計画や住宅政策の隙間をくぐり抜けるように無計画、無秩序に供給されたマンションも少なからずあるため、行政の初期のマンション施策は、迷惑施設への対策に近い形でスタートした。
マンションが普及し都市居住の主要な形態になった現在も、こうした傾向が行政施策に残っているため、管理組合や区分所有者は施策上の恩恵を受けることが少なく、不利な立場に置かれていることも多い。
人口の相当部分をマンション居住者が占める自治体も増えるなかで、いつまでもこうした状態を続けるわけにはいかない。マンションを社会インフラとしてとらえ、その特性を生かした積極的な施策対象が必要になっている。
マンションの社会への寄与
社会インフラとしてのマンションの果たす役割として、まず都市の安全性の向上をあげることができる。倒壊、延焼しやすい木造住宅がほとんどだったわが国の都市に、堅固、不燃の建築物であるマンションが普及したことの意味は大きい。
東京都は地震発生時に火災が発生しても、大規模な延焼火災の恐れがなく、広域的な避難を要しない区域として、「地区内残留地区」を34か所、約100km2を指定しているが、これもマンションの普及なしには考えられないことである。加えて大規模マンションの場合は、容積率の緩和と引き換えに公開空地が設けられることが多く、これも防災に寄与している。
税収増もマンションの社会的効用の一つである。再開発事業で土地利用が転換され、マンションが供給されると土地の固定資産税評価額が上がることが多い。建物の固定資産税とあわせて自治体の税収増にも寄与している。
さらにマンションの分譲マンションの居住者は比較的所得が高い層が多いため、住民税の増収にもつながる。計画的に整備された地域に良質なマンションが計画的に供給され、購買力がある住民が増えることによる地域イメージの向上や地域経済の活性化がもたらす波及効果も大きい。
行政負担を大幅に軽減
もちろん、マンションの増加は良いことずくめというわけではない。多くの自治体がマンション建設を規制する施策をとってきた背景には、デベロッパー等による従前の自然環境や住環境を破壊する乱開発がある。
また、地域コミュニティの伝統を無視する一部の居住者の心無い行動が、古くから生活をしている地域住民の神経を逆なでし、マンションに対する反発を招いていることもある。管理不全なマンションが増加による、地域への悪影響も懸念される。
しかし、こうしたマションの増加による地域社会への負荷を考慮しても、マンションの存在意義が正当に評価されず、区分所有者や居住者が不利益をこうむっていることは否めない。
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