社会インフラとしてのマンションの役割を考える(2/2)
2014/12/29
マンション管理士/TALO都市企画代表
飯田太郎
(前ページからの続き)
分かりやすい例は、道路、公園、上下水道等の公共施設の維持管理費の負担である。一般の住宅地では原則として一戸一戸の官民境界まで公共施設を自治体等が所有、維持管理している。
しかし、マンションの場合は自治体等が整備し維持管理するのは敷地の外周までである。マンションの敷地内の通路、上下水道等のメンテナンスは区分所有者の団体である管理組合が行っている。
3ha(ヘクタール。1ha=1万平方メートル)の敷地面積に超高層棟が建つ2800戸のマンションと、敷地面積100m2の戸建住宅が2800戸ある街とを比較してみよう。
戸建住宅の街の住宅の敷地面積は合計28haになる。これに住宅敷地の15%に相当する面積の道路4.2haと、住宅敷地の3%に相当する面積の公園8400m2を加算すると街の総面積は33ha超になる。道路の平均幅員を5mとする道路延長は8.4kmで、年間維持管理費を1mあたり50万円とすると計420万円である。また、公園の年間維持管理費を1m2あたり120円とすると100.8万円になる。
道路に埋設されている上下水道の管渠(かんきょ)についても、それぞれ延長8.4kmする。1mあたりの年間維持管理費が上水道管150円、下水道管300円としてあわせて378万円である。
このように、戸建住宅2800戸の街の道路、公園、上下水道の年間維持管理費は900万円近くになるが、これは当然行政が負担することになる。これに対してマンションの場合は、敷地内にあるため公共施設の維持管理費用を管理組合が負担している。この仕組みは電気、ガスについても同じで、各事業者は敷地内の供給施設の維持管理費の負担を免れている。
マンションの場合は、日常の維持管理費とは別に、経年劣化等に伴う補修や交換についても管理組合が負担することになる。公園・緑地と同様な役割を果たしている公開空地については、制度上は固定資産税等の軽減措置はあるが、実際にはほとんど適用されていない。
さらに一部の自治体には開発負担金制度もある。徴収されるのは形式的にはデベロッパーだが価格に転嫁されるから、実際には購入者つまり住人が負担することになる。
管理組合や居住者団体の自覚的取り組みが必要
こうした経済的な面だけでなく、地域の生活者としてもマンションの居住者は不利な扱いを受けることが多い。
地域の町内会等は長い歴史もあり、行政を補完する機能を果たしているため、さまざまな行政上の情報も伝えられる。これに対してマンションの管理組合は、施策上の位置づけが明確でないこともあり、行政情報は伝えられていないことが多く「情報過疎地区」になっている。
マンションの居住者は地域コミュニティへの関心が薄いと言われているが、行政が地域社会の一員としてマンション居住者を扱っていないことにも要因がある。
少子高齢人口減少により都市のコンパクト化が進み。マンションをはじめとする集合住宅はますます増加することはまちがいない。マンションは単なる私有財産である住宅の集合体の域を超えて、スケールメリットを生かした社会インフラとしての役割を果すことになる。介護、医療の分野では、在宅介護や在宅医療が主流になろうとしている。
マンションは地域社会の「異物」のような形で登場した歴史的な事情を払しょくし、社会的な役割を果たすためには、管理組合や居住者団体がまちづくりの主要な担い手としての自覚をもち、行政に積極的に働きかけることでマンションの社会的ポジションを確立することが必要である。