日本建築家協会
宮城メンテナンス部会長インタビュー(1/2)
2014/7/15
マンションなど集合住宅のメンテナンスやリニューアルに積極的に取り組んでいた建築家が、新日本建築家協会(当時)の技術部会に集い、1987(昭和62)年にメンテナンス分科会が誕生。現在、公益社団法人日本建築家協会(JIA)関東甲信越支部に属するメンテナンス部会は、2013(平成25)年で設立25周年を迎えました。メンテナンス部会長を務める宮城設計一級建築士事務所の宮城秋治氏に、これまでの活動や今後の展望を伺いました。
マンションのトータルメンテナンス
――かつてはマンションの修繕や改修に詳しい専門家が少なかったようですが、JIAがメンテナンス部会を設立して先駆的な取り組みを開始したのは、何かきっかけがあったのでしょうか。
1980年代の後半、高度経済成長期に供給が始まった集合住宅群が修繕の時期を迎えましたが、維持管理に関する技術はまだ確立されていませんでした。そこで、個々の建築設計事務所に蓄積された知識や経験を共有することで技術の研鑽と向上を図り、マンションのトータルメンテナンスを広めようとしたのです。
それまでのスクラップアンドビルドを中心とする考え方とはまったく異なる方向性を示そうとしたもので、JIA関東甲信越支部の技術部会だけでなく、日本建築学会の小委員会も趣旨に賛同し、分科会の立ち上げに多くの建築家が寄与したと聞いています。
1993年にメンテナンス分科会はメンテナンス部会となり、『マンション百科』[注1]を出版して研究成果をまとめ、全国各地でメンテナンスセミナーを開催するなど、活発な活動を続けました。しかし、1995年1月に阪神淡路大震災が発生したため、セミナー開催などの活動は一時中断し、多くの関係者は被災地に入って復興支援にあたりました。
ちなみに、被災地での専門家による調査と検証の成果は『被災した集合住宅』[注2]にまとめられ、1995年4月には出版されましたが、これは驚くべき早さです。大震災の教訓を後世に伝えようという当時の意気込みが感じられます。
一方、メンテナンス部会の活動の一環として、リフォーム技術研究会が立ち上げられました。2003年にはマンションリフォーム技術協会(marta)に改組され、「建て替え」ではなく「長寿命化を図る」ことによるマンションの再生をめざした研鑽と啓蒙活動を展開しています。
また、阪神淡路大震災を契機に設立された建築耐震設計者連合(JARAC)の活動は、2004 年に内閣府の承認を受けた特定非営利活動法人(NPO)の耐震総合安全機構(JASO)に引き継がれていますが、ここでもメンテナンス部会のメンバーが活躍しています。
マンションの再生と建築家の社会的職能
――現在のメンテナンス部会では、具体的にどのような取り組みを進めているのでしょうか。
マンションのトータルメンテナンスの普及促進という理念はいまも変わりません。若手の建築家をサポートし、修繕のスペシャリストを育成し、修繕の技術を常に向上させていくために、月1回の会合で最新の改修事例の発表会や外部講師による改修技術の勉強会を実施しています。
マンションの維持管理なんて人の建てた建物の尻ぬぐいだという風潮はいまもあります。残念ながら新築の設計を行った技術者が維持管理や修繕に積極的に関わるような土壌はまったくありません。マンションの総合的改修だけでなく、建物の構造や耐震も考慮したうえでマンションの再生を促進するためには、建築家による取り組みがどうしても必要となります。そして、研究成果を出版やセミナーを通じて公表していくことは、建築家としての職能を社会貢献につなげる重要な意味があると思います。
――東日本大震災以降、国や自治体が老朽化マンションの建て替えや旧耐震建物の耐震改修を促進・支援する動きが加速しています。
耐震改修はまだ事例が少ないことが最大の問題ですが、行政の助成金を活用して耐震診断を実施するマンションが増えていることは事実です。これは、メンテナンス部会ではなくJASOとしての取り組みですが、東京都の杉並区はJASOと提携して「耐震相談アドバイザー」派遣の費用を全額助成する耐震化支援事業を実施しました。その後、他区にも同様の助成制度が広がり、都による耐震アドバイザー派遣事業や耐震診断助成事業が創設されるきっかけともなりました。
まずは簡易診断を実施し、その結果をみて精密診断を実施するところまでたどり着くマンションが増えたことは評価できます。しかし、では耐震改修計画を作成しようということになると、ここから先がたいへんなのです。最近の法改正でマンションの耐震改修は4分の3以上ではなく過半数で決議できる特例が認められましたが、それでもどのような補強工事を行うのか、そのための費用はいくらかかるのか、区分所有法17条2項の承諾書はどう取っていくのかなど、不安材料はいっぱいあります[注3]。
補強工事が無事終了したとしても、改修後の姿が評価されているのか検証する必要があります。やはり鉄骨ブレースがまる見えのままではダメで、意匠的またはデザイン的に未熟な耐震改修は、せっかく苦労して実施しても不動産評価や資産価値の低下を招く結果となりかねないのです。
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