マンションの防災体制強化を管理会社が支援(2/3)
2012/12/11
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マンションにおける「自助」は区分所有者・居住者、「共助」は管理組合と役割を分担することは簡単ですが、担い手となる住民がいなければ共助は成り立たない、そのために管理組合が自助のサポートに一定の役割を果たすべきとする考え方もあります。
この視点から、管理会社だけでなくグループ企業が連携して、分譲マンション向けサービスの拡充を図る試みが進行しています。
マンション居住者向け「防災ボックス」を開発
株式会社大京と大京グループで管理事業を手がける株式会社大京アステージは、東日本大震災の被災者の声などを基に、マンション居住者向けに防災備蓄品をパッケージとしてまとめた防災ボックス「LIFETY
KIT」(ライフティキット)を開発し、2012年10月に発表しました。
パッケージの中身は、@安否確認メッセージを玄関ドアに貼付するオリジナルマグネット、Aラジオ付きダイナモライト、B清拭布、C携帯用トイレ、D家族情報メモ、E防災用品リスト、以上の最小限に絞り込んだ品目のみ。防災用品は必要なものだけを補充するという考えのもと、あとはリストをみて居住者自身が追加することで、防災意識の向上につなげるという狙いがあります。
保管用のボックスは、耐荷重5 kgの紙製で、引き出し型、中仕切り付き、物入れやクローゼットに入る大きさなど、細部にこだわったオリジナル製品。被災後のマンションで生活を続けることを前提に、据え置き型として開発したものです。
「東北エリアで当社グループが管理する被災マンションでは、ほとんどの居住者がマンション内で生活をされていました。このため、防災備品を1か所にまとめておけるような、持ち出さない箱型ボックスとして開発したのです」と、大京アステージのライフサービス事業部サービス企画課長の中村宇裕氏は開発の経緯を語ります。「ボックスの材質も、薄くても強度が高いダンボールを半年かけて開発しました。紙は壊れやすい反面、いざというときは破って中身を取り出すことができます。また、組み立て式としたことで、自助のためのスタートラインを手作業で体験してもらうこともできます」。
「LIFETY KIT」は、2013年新春に販売予定の新築マンション「ライオンズ相模原ライズフォート」の標準装備仕様として採用し、以降、相模原市内をはじめとする既築マンションにも提案していく予定。また、将来的には商標登録出願し、全国規模の小売り展開も視野に入れています。
防災意識向上の機会としてワークショップを活用
防災意識を向上させるために重要なのは、自分で考えて体験してみること。これは「自助」だけでなく「共助」についてもいえることです。大京グループのマンションでは、震災後の2011年7月以降、「共助」の意識を高める手段として、共用部の標準仕様として導入していた「防災備蓄品」の内容を見直して増強を図ってきました。
防災備蓄品の増強は、震災を機に要望が高まっています。ホワイトボードは非常時の情報をリアルタイムで伝達するために最適だった、停電時には自家発電機が活躍したなど、震災の教訓を生かした提案には説得力があるといいます。
また、管理組合による独自の「防災マニュアル」作成のニーズに対応して、「防災マニュアル作成ワークショップ」を開催し、希望する役員等は無料で参加できるようにしています。
「ワークショップを開くといっても、防災マニュアルはとても数時間でできるものではありません。半年や1年ぐらいの長期スパンで、役員の方に考えてもらう、気づいてもらう、そのためのサポートをすることがワークショップの目的です。セミナー形式だと講師の話の一方通行となりがちですが、4〜6人のワークグループに分けて行う参加型のワークショップならば、被害を想定して対応を考える力を養うことができます。また、その中で経験に基づくアドバイスや気づきを与えることもできています」と、大京アステージ受託推進部受託推進課係長の鈴木健太郎氏は解説します。
ワークショップは年に12回程度開催していますが、社内講師の養成や防災士有資格者の増員を行い、各支店でも同レベルの対応ができるようサポート体制の整備を図っています。
大京のグループ経営企画部広報室担当課長の飯田賢治氏は、「当社グループでは、さまざまな防災への取り組みを行っていますが、ベースとなるのは、お客さまからの声をきちんと拾い上げていくことです。また、そこにはお客さまから選ばれるようなグループの取り組みも求められている」と話します。
阪神・淡路大震災はマンションにおける「共助」の意識向上につながりましたが、東日本大震災では「共助」の前提となる「自助」の重要性があらためて問われているといえそうです。
(マンション管理士/波形昭彦)
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