<連載第10回>
実践編(2)定義規定ほかの総則的規定を書き換える
2013/2/19
標準管理規約では、第1条の目的規定に続く第2条に定義規定が置かれています。これは、一般的な法律・条例では、冒頭にその法令全体に通じる総則的事項を設けることが通例で、その代表的なものが第1に目的規定、第2に定義規定だからです。標準管理規約が法制執務の原則に基づいて作成されていることの証しともいえるでしょう。
しかし、法令文をあまり目にすることのないマンションの区分所有者や居住者が、管理規約の1ページ目を開いたときに感じる違和感というか“とっつきにくさ”の原因は、この規約冒頭の法令文スタイルにあると思われます。特に定義規定は、あわせて区分所有法を読まなければ内容を理解することができず、管理規約は難解なものという印象を与えこそすれ、規約をわかりやすくするための補足とはなっていません。
このため、管理規約の第2条(定義規定)は、定義する用語を追加したり、用語の定義を補足する変更を加えることがよく行われます。
定義規定を補足する
Aマンションでは、いちいち区分所有法を参照しなくてもある程度の意味がわかるように、管理規約第2条を次のように変更しました(下線は変更部分)。
【標準】
(定義)
第2条 この規約において、次に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 区分所有権 建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)第2条第1項の区分所有権をいう。
二 区分所有者 区分所有法第2条第2項の区分所有者をいう。
(※以下略)[注1]
↓
【変更後】
(定義)
第2条 この規約において、次に掲げる用語の意義は、それぞれ該当する各号に定めるところによるものとする。
1.区分所有権 本マンションの住戸を目的とする所有権をいう。
2.区分所有者 前号の区分所有権を有する者をいう。
(※以下略)[注2]
この例では、わかりやすくしようとする書き換えそのものは評価に値するのですが、法令文の記述方式と述語の使用法を考慮せず、余計な変更を加えてしまったことに問題があります。
まず、号番号を漢数字「一、二…」からアラビア数字「1、2…」に変えたことが不適当です。このままでは、項番号を示す行頭のアラビア数字「1、2…」と混同し、「第2条第2号」を「第2条第2項」と読み間違えるおそれがあります。連載第3回でみたとおり、法令文を横書きとする場合、号番号は縦書きの場合の漢数字「一、二…」のままとするか、カッコ付きアラビア数字「(1)(2)…」に書き換えるなどの表記基準を定めて統一する必要があります。
また、「各号に定めるところによるものとする」は不要な書き換えで、標準規約にあるとおり「各号に定めるところによる」とすべきです。法令文において、「(定めるところ)による」「(…の例)による」などの述語は、他の規定等を包括的に借用する場合に、「ものとする」は一般的な原則や方針を表す場合に使い、それぞれの意味に応じた使い分けが行なわれます。上記の書き換えは、別の意味合いをもつ述語を不必要に重複させることで、条文の意味をかえって不明確としています。
【改善例】
(定義)
第2条 この規約において、次に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(1)区分所有権 構造上及び使用上の独立性を有する建物の部分の所有を目的とする権利をいう。(区分所有法第2条第1項)
(2)区分所有者 区分所有権を有する者をいう。(区分所有法第2条第2項)。
このほか、追加修正した部分に「…であるものとする」という表現もよくみかけますが、これも条文としては不適当な述語です。どのような規定を創設したいのかという趣旨によって、「する」「とする」「ものとする」などから最適な述語を選ぶ必要があります(連載第5回参照)。
日常用語と同じでも法令用語としては別の意味をもつ単語や述語には注意が必要です。また、単にまわりくどい表現をしただけでいわゆる“条文らしい”言いまわしをしたと勘違いすることは、厳に慎まなければなりません。
その他の総則的規定を変更する
団地型のBマンションでは、標準管理規約(団地型)の第3条を次のように変更して使用してきました。
【標準】
(規約及び団地総会の決議の遵守義務)
第3条 団地建物所有者は、円滑な共同生活を維持するため、この規約及び団地総会の決議を誠実に遵守しなければならない。
↓
【変更後】
(規約等の遵守義務)
第3条 団地建物所有者は、円滑な共同生活を維持するため、この規約、付属規程及び団地総会又は棟総会の決議を誠実に遵守しなければならない。
団地建物所有者が遵守しなければならないものには、規約だけでなく付属規程(Bマンションでは「運営規則」「使用細則」などを指す)も含まれること、また総会決議には団地総会だけでなく棟総会の決議も含まれること、以上2点を規約に明記することが変更の目的であることは明らかで、その趣旨は理解できます。
しかし、条令文における接続詞の使い方が必ずしも適切でないことが気になります。管理組合による自主的な改正であれば特に問題はありませんが、もし管理会社が作成した原始規約がこうなっていたとしたらお粗末な仕事です。
まず、「団地総会」の決議と「棟総会」の決議を、選択的接続詞「又は」でつないだことが間違いです。そもそも棟総会は全ての団地建物所有者を対象として効力を有するものではないうえ、章を別にした棟総会に関する詳細な規定(標準では第8章)があるにもかかわらず、ここで遵守義務規定に追加する必要があるかどうかが判断の分かれるところとなりますが、もし追加するのであれば並列的接続詞「及び」が適当と考えられます。
例えば、ある区分所有者が所有権をもつ棟で棟総会による決議があった場合、その区分所有者は「団地総会」決議と「棟総会」決議のどちらか一方ではなく、両方を遵守しなければなりません。このようなときには、「又は」ではなく「及び」を使用します。そうでなければ、団地総会決議には従うが棟総会決議には従わないこと、あるいはその逆が認められることになってしまいます。
次に、「団地総会又は棟総会」を「団地総会及び棟総会」とすると、その直前にある「及び」と重複して並列関係が不明確となってしまいます。ここで明文化したいのは、前記のとおり、「規約」(X)と「総会決議」(Y)にはどちらも同等の遵守義務があり(XとYは並列)、「規約」には「管理規約」(a)と「付属規程」(b)が含まれ(aとbは並列)、「総会決議」には「団地総会決議」(c)と「棟総会決議」(d)が含まれる(cとdは並列)ということです。
以上のような改正趣旨を反映させ、そのメッセージが条文から読み取れるようにした改善案は次のとおりです。
【改善例】
(規約等の遵守義務)
第3条 団地建物所有者は、円滑な共同生活を維持するため、この規約及び付属規程並びに団地総会及び棟総会の決議を誠実に遵守しなければならない。
管理規約の総則的規定(標準では第1章)は、各マンションの実状に応じた書き換えがどうしても必要となる部分です[注3]。
この場合に気をつけなければいけないのは、法令文の表記法の原則(連載第2回参照)や、記述形式と条・項・号の区分(第3回)、接続詞の厳密な使い分け(第4回)、述語(言いまわし)の正しい使い分け(第5回)などを守り、他の条項との整合性を維持することです。
こうした法制執務の原則を守ることで、ただでさえ複雑で理解が容易でない条令文を、ある程度合理的に簡素化し、不要な誤解を防ぐことができるのです。
(マンョン管理士/波形昭彦)